研究概要 |
多発性骨髄腫は大量化学療法を前処置とする造血幹細胞移植をもってしても治癒の期待できない難治な造血器腫瘍である。本疾患の治癒を目指した治療法を開発するためには、分子レベルでの詳細な病態を明らかにし、それらに基づく新たな治療法を開発する必要がある。本研究は、これまでにない骨髄腫細胞のエピジェネテイックな転写制御を基にした治療法を開発するために、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDACI)による治療の可能性について検討し、その分子作用機構の解明をも目的とする。 HDACIを用いて種々の骨髄腫細胞の増殖抑制、アポトーシス誘導に及ぼす効果について検討したところ、HDACI活性を有するトリコスタチン(TSA)は種々の骨髄腫細胞株(U266,RPMI8226,IM9)および患者検体の増殖を濃度および時間依存性に抑制した。Propidium iodide (PI)を用いた細胞周期解析では、TSAは骨髄腫細胞を細胞周期G1期に停止させた。さらに、annexin Vを用いたFACSによる解析で、TSAは骨髄腫細胞のアポトーシスを誘導し、その増殖を抑制した。興味深いことに、骨髄腫細胞の増殖に関与する転写因子NF-κBの発現誘導がTSAにより認められが、TSAによるNF-κBのアセチル化やIκ-Bのリン酸化は認められなかった。しかしながら、TSAとNF-κB阻害剤の併用により骨髄腫細胞のアポトーシスは相乗的に誘導された。以上の結果より、TSAによるNF-κBの活性増加はアポトーシス誘導による細胞死の結果としてのシグナル伝達の結果と考えられた。さらに、その分子機構を明らかにするために骨髄腫細胞の増殖分化に関与するJAK/STAT系、MAPキナーゼ系などの種々のシグナル伝達分子を検討したところ、TSAによる骨髄腫細胞のアポトーシス誘導にはAKTが関与することが明らかになった。すなわち、活性型AKT導入細胞ではTSAのアポトーシス誘導は阻害されず、野生型あるいはドミナントネガテイブ型AKT導入株では阻害された。今後、HDACIの臨床応用を目的にin vivoでの実験を継続する予定である。
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