研究概要 |
平成15年度で遺伝性・自己免疫性脱髄疾患のいずれの脳においても造血型PGD合成酵素(HPGDS)の発現が増加していることを確認した。その結果を踏まえて、平成16年度にはクラッペ病のモデルマウスtwitcherを用いた実験を行ない、以下の成果を得た。 (1)前年度の検討にて臨床症状の改善とグリオーシスの軽減を確認したHPGDS-欠損twitcherにおいてPGD_2はtwicher (1,300±570 pg/brain)の70% (820±130pg/brain)に抑えられていた(日令39)。平均寿命である日令45のtwitcherでは、誘導型NO産生酵素(iNOS) mRNAがage-matched controlに比して著増し,NOの作用の結果産生されるnitrotyrosineが血管内皮細胞に強く発現していることを確認した。HPGDS-欠損twitcherでは、iNOSのmRNA量はtwitcherの8.3%と高度に抑えられていた。また、nitrotyroshine陽性血管内皮細胞も著減していた。 (2)HPGDS阻害剤であるHQL-79を日令30より、twitcherに10mg/kg連日腹腔内投与すると、振戦・失調等の小脳症状が軽減し、平均寿命が有意に伸びた(47.8±1.3日vs44.0±0.7日、p<0.03)。神経病理的検索ではグリオーシスの軽減が認められた。 NOはEAEやtwitcherにおいて産生が増加し、脱髄との関連が示唆されている。我々の結果により、HPGDSの作用により合成されるPGD_2は脱髄疾患の脳において炎症を誘起し、グリオーシスを促進するが、その作用経路の一つは血管内皮細胞において合成されるNOを介していると考えられる。PGとNOの関連を示唆した最初の仕事である。
|