研究概要 |
癌に対する防御免疫にはMHCクラスIに拘束性のCD8+キラーT細胞が必須の関わりを持ち、それらの認識対象となる癌抗原ペプチドは多数同定されている。しかしながらそれらのペプチドを用いたワクチンではキラーT細胞を主体としたな抗腫瘍免疫の誘導は多くの場合困難である。またそれらのペプチドのみをコードする遺伝子を用いた従来のDNAワクチンでは、抗原特異的CD8+T細胞が効率よく誘導されず、また防御免疫も成立しにくい。 近年、田中等によりペプチド抗原をユビキチン化するとその抗原が抗原提示細胞内のプロテアソームに誘導され、プロテアソームで効率よくプロセッシングを受け、必然的にMHCクラスI分子に提示され、抗原特異的CD8+T細胞が誘導されることが証明された(Immunol.Rev.163:161-76,1998)。このシステムはユビキチン/プロテアソーム経路(ubiquitin-proteasome pathway)と呼称されている。我々は上記知見を基盤とし、マウスメラノーマ由来のTRP-2遺伝子、マウス肺癌由来のConnexin-37等とユビキチン遺伝子の融合遺伝子を構築し、これらの遺伝子を用いてDNAワクチンを行った。その結果、宿主マウスでは各々の癌に特異的なCD8+T細胞誘導され、強い抗腫瘍免疫が誘導され、肺転移も抑制された。この抗腫瘍免疫は癌遺伝子のみを用いたDNAワクチンでは全く誘導されなかった。この現象は癌遺伝子とユビキチン遺伝子の融合遺伝子を用いたDNAワクチンにより、この融合遺伝子産物がubiquitin-proteasome pathwayに選択的に誘導されること、そしてその結果癌遺伝子産物中に含まれるMHCクラスIに拘束性のキラーCD8+T細胞認識エピトープがプロテアソームにより効率よく切り出されることにより、強力な癌抗原特異的な抗腫瘍免疫がされることを示唆している。 なおプロテアソーム関連遺伝子のノックアウトマウス(PA28α/βKOマウス)では融合遺伝子によるDNAワクチンでも抗腫瘍免疫は成立しなかった。本実験系におけるプロテアソームの中心的役割はin vitroのプロテアソーム阻害剤epoxomicin等を用いた系においても支持された。
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