精神科医療現場において、生体試料としての爪切片の採集は、採血に比して身体的侵襲や心理的負担が少なく患者さんや家族からのインフォームドコンセントが非常に得やすい。本研究では、統合失調症罹患一卵性双生児不一致例を用い、胎児間輸血が起きたことを仮説として、双方の児の手足指爪由来DNAの遺伝子解析型比較を行うこととした。これにより、従来の遺伝学的同一性の仮説が覆される可能性がある。交付1年目には、爪切片を遺伝解析試料として安全に確実に取り扱えるために、爪切片の採取から保存、輸送、DNA、RNA抽出、管理にいたるまでの標準プロトコールの作成を行った。この年は、統合失調症罹患一卵性双生児ペアーにおいて、双方の児の手足指爪由来DNAの遺伝子型比較を行う準備設立を進めてきたが、志なかばにして研究代表者の転出となり、頓挫することになったことが残念であった。爪切片の採取のプロトコールの概要は、採取後は水分保持につとめ、保冷した状態で12時間以内にタンパク分解溶液に浸透されることが、後のDNA収量に大きな影響を与えるということであった。標準的な爪DNAの抽出では2mm幅から200ng程度のDNAが抽出されるが、管理がよい場合は、収量は2倍増し、1.5日以上経過した場合の収量は著しく減少する。さらに、みかけ上のDNA収量は確保できても、PCR反応が不成功な現象が頻発する。これは、生体爪成分に含まれていたケラチンや酸化物質が、PCR阻害を行っていると考えられる。このPCR阻害現象も、爪採取後の迅速なDNA抽出で緩和される。
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