プレパルス抑制テスト(PPI)は、大きな音刺激に対する驚愕反応が、音刺激を与える直前に弱い音刺激(プレパルス)を与えることによって減弱することをみる検査である。統合失調症ではPPIが低下していることが知られており、感覚運動ゲイティングの障害があるとされる。しかし、患者を対象とした研究はわが国には非常に少ない。われわれは、日本の患者における検査条件の最適化を行い、PPIと症状との関連、PPIと健常者の統合失調症型人格尺度(SPQ)スコアとの関連について検討した。 対象は、国立精神神経センター武蔵病院にて治療中の統合失調症患者と健常者である。第1サンプルは患者21名と健常者16名である。第2サンプルは患者50名と健常者124名である。患者に対しては、陽性陰性症状評価尺度(PANSS)による症状評価を行った。49名の女性健常者を対象にSPQによる評価を行い、PPIとの関連をみた。PPIは国産の機器(小原医科産業)を用い、シールドルームにおいて行った。本研究は、国立精神・神経センター倫理委員会による承認を受けており、研究参加に際しては文書で同意を得た。 パルスープレパルス間隔が120msecの条件下で、患者のPPIは健常者に比較して著明に低下していた(p<0.001)。PANSSの陽性症状スコアとPPIとは有意な負の相関を示したが、陰性症状との相関は認められなかった。SPQの総得点とPPIとの間に有意な相関は見られなかったが、下位項目のうち、「人間関係における過剰な不安」と「風変わりな会話」のスコアは、PPIと有意な負の相関を示した。以上から、日本の統合失調症患者においてもPPIが著明に低下していること、PPIは陽性症状の病態を反映する可能性があること、PPIの低下は統合失調症を発症していなくても感覚運動ゲイティング機能の低下と関連する可能性が示唆された。
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