研究概要 |
背景:肝臓の修復過程における再生と免疫の相互作用の詳細については未だ不明な点が多い。顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)は幹細胞動員作用を介して再生に、好中球活性化を介して炎症に関与しているが、近年その細胞性免疫制御作用も知られるようになったため肝修復における役割を検討した。 方法:F344ラットを使用し70%肝部分切除の前に実験群に対してはリコンビナント・ヒトG-CSF(rhG-CSF)を250μg/kg5日間皮下投与を行い、肝切除の6時間および20時間後の残存肝組織中のサイトカインのmRNA発現をRT-real time-PCRで定量した。また20時間後の肝内の蛋白レベルをELISAで、DNA合成速度を^3H-TdR取込法で測定した。 結果:肝切除により残存肝の炎症惹起性サイトカイン(TNF-α,IL-1β,IL-6)、抗炎症性サイトカイン(TGF-β,IL-10)、ならびに増殖因子(HGF,c-Met)の転写レベルは有意に上昇したが、rhG-CSFの前投与による影響は認めなかった。内因性G-CSFの転写レベルは肝切除後著明に上昇した。これらに対して、免疫関連サイトカイン(IFN-γ,IL-4,IL-12p35,IL-15)の転写レベルは肝切除により抑制され、rhG-CSF投与によりIL-12p35がさらに低下した。蛋白レベルでは残存肝のIL-12p70、IFN-γおよびTNF-αはrhG-CSFの前投与により肝切除無しの群に比べ有意に減少していた。また、rhG-CSF前投与により肝切除後の血清ALTおよびASTの上昇が抑制され、残存肝のDNA合成速度は約2倍に促進した。 結論:肝切除後に内因性G-CSFの著明上昇とIL-12、IFN-γの産生抑制が認められ、rhG-CSF前投与による後者と肝再生の促進が示された。部分肝切除後の肝内におけるG-CSFを介した細胞性免疫と再生の相互作用が強く示唆された。 今後の展開:メカニズム解析のために、再生肝細胞に対する肝NK細胞の障害性と肝内分布とこれに対するrhG-CSFの影響を検討する。
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