臓器、組織再生の際に必要な、マトリックス蛋白を始めとした細胞外因子を検討するため、本研究ではまず、細胞外マトリックスのin vitroモデルとして用いるための、細胞の長期培養による細胞外マトリックス構築を試みた。まず、上皮系、間質系の数種類の細胞を用いて1週間以上培養を行った。その後、細胞外マトリックスが構築されているか検討するために、培養細胞にTriton/NH_4OHを加え細胞成分を取り除き、残りをSDSにより抽出し、更にSDS-PAGEによりその成分を解析した。その結果、この系により細胞外マトリックスが構築され、また培養皿上にマトリックスが残ることが示された。ただし、培養皿について、無処理、ゼラチンコート、I型コラーゲンコートにおいて同様の検討をした結果、I型コラーゲンコートの培養皿に最もマトリックス成分が残ることが示された。こうして得られた細胞外マトリックス上にマトリックスを産生させたものと同種あるいはそれとは別種の細胞を培養し、その細胞のphenotypeの変化を観察した。興味深いことに間質系細胞、筋肉細胞と上皮系細胞のいくつかの産生した細胞外マトリックス上で細胞を培養した場合、その細胞は元の(マトリックスを産生した)細胞と同様の方向を示した。具体的には、bipolar(直線状)の形の細胞の場合、培養皿上でこの直線の方向の幅は180度あるが、元の細胞と同一の方向を示したのである。これらから、組織、臓器の再生の際、細胞外マトリックスが残っていれば細胞がもとの方向や形をとり、更にそれが集まって元通りの組織、臓器の形をつくると考えられる。一方、Western blottingや培養細胞産生マトリックスの免疫組織染色等からこの方向決定因子はフィブロネクチンであることが示唆されている。
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