研究課題
リンパ腫、胚細胞腫などによる傍鞍部腫瘍で視索に沿った脳浮腫様の変化が発生するが、その発生機序は視索上に存在する血管周囲腔の拡大によることを観察し報告した。(Saeki N,2003)浮腫様変化は、視索上に生理的に存在する血管周囲腔と、脳表のクモ膜下腔との交通路が腫瘍により遮断された結果、細胞外液が局所の血管周囲腔に沿って停滞・貯留した状態であると考察した。(ここでくも膜下腔、血管周囲腔、細胞外液腔の双方向性の交通は動物では立証されている。)以上の観察・考察から、以下の2つの仮説を証明することを目的とする。1.血管周囲腔には動脈性と静脈性があり、特に後者が細胞外液のクモ膜下腔への環流路として機能している。2.浮腫様変化は、視索上部から大脳基底核、内包周囲、大脳深部白質など解剖学的に脳深部に規則的に分布・拡大することより、脳深部には互いに交通する血管周囲腔・細胞外液腔の潜在的な脈管・交通路が存在する。視索上部のクモ膜下腔は特異な位置にあり、それと血管周囲腔およびその移行部位より浮腫様変化が始まっていた。これらの部位が、脳の他の部位の血管周囲腔と違う構造を有するか否を検証する。比較部位として大脳皮質、大脳基底核を選択し、現在データ収集中である。この研究は人において、脳浮腫の新しい発生機序、脳脊髄液の産生・吸収の解明に直接関連し、臨床的には神経系の免疫・移植・再生医療に関与する。さらに、脳腫瘍、炎症性・脱髄性疾患など多岐にわたる神経疾患の病態把握、治療に寄与する可能性がある。