RNAi(RNA interference)はRNAを細胞内に導入したとき、それと同じ配列を持った遺伝子の発現が抑制される現象である。平成15年度は骨軟部腫瘍の癌遺伝子を標的としたRNAiによる治療の可能性を探る目的で研究を行った。まずユーイング肉腫に発現するEWS/Fli-1キメラ遺伝子に対するRNAiを作成し、in vitroでキメラ遺伝子の発現を抑制するか否か検討した。発現はRT-PCRで確認した。8種類のRNAiを作成し発現ベクターにクローニング後、それぞれユーイング肉腫細胞にトランスフェクションしたところ、発現抑制が著明な2種類のRNAiを得ることができた。これを用いて細胞増殖抑制能を検討した結果、約60%の抑制効果を認めた。またその際、EWS/Fli-1の標的遺伝子と考えられているc-Mycの発現は10〜25%減少していた。さらにtelomerase reverse transcriptaseの発現と、telomerase活性も著明に減少していた。これらの結果はRNAiによるユーイング肉腫の治療の可能性を示唆するものと考える。 また、ユーイング肉腫細胞の分化とEWS/Fli-1遺伝子の関係についても検討した。ユーイング肉腫はある条件下で神経分化を示すことが知られていたが、EWS/Fli-1との関連は不明であった。ユーイング肉腫を分化誘導してもEWS/Fli-1の発現に変化はなく、EWS/Fli-1を強発現させた神経細胞においては分化能に変化をきたさなかった。しかし、EWS/Fli-1発現を抑制すると分化が抑制され、NGFレセプターであるTrkAの発現が抑制された。すなわち、EWS/Fli-1はユーイング肉腫の造腫瘍性に関与するのみでなく神経分化に関しても重要な働きをしていると思われた。
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