研究概要 |
昨年度はプテリン誘導体である6-ホルミルプテリン(6FP)をラットの初代培養肝細胞に腫瘍壊死因子(TNFα)と抗がん剤アクチノマイシンD(ActD)を負荷して細胞傷害を惹起した肝不全モデルに投与し、6FPがTNFαとActDによって誘発される肝細胞のアポトーシスを抑制することにより肝細胞傷害を緩和することを明らかにした。本年度は、この機序を解明すべく以下の実験を行った。 方法 1.細胞内活性酸素の検出:ラットの初代培養肝細胞に6FPを投与し、電子スピン共鳴法(EPR)を用いて、活性酸素種(ROS)が産生するか否かを検討した。 2.細胞内還元型ならびに酸化型グルタチオンの比(GSH/GSSG)の測定:ラットの初代培養肝細胞に6FPを投与し、細胞内GSH/GSSGにおよぼす影響を検討した。 3.6FPの細胞内濃度の測定:ラットの初代培養肝細胞に6FPを投与し、その細胞内濃度の変化を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定した。 結果 6FP投与により、肝細胞に濃度依存性のROSの発生が観測された。同じく濃度依存性のGSH/GSSGの低下が見られた。また、500μMの6FPを肝細胞に投与した場合、その細胞内濃度は、4、8,16時間後でそれぞれ26.0、22.2、7.4μMであった。 以上より、6FPは細胞内にROSを産生させることによりGSH/GSSGの低下、すなわちレドックスの変化をもたらすことが分かった。また、6FPの細胞内濃度は細胞外濃度よりはるかに低く、その低い濃度ではカスパーゼ3などのアポトーシス関連酵素の活性を直接抑制することはない。したがって、6FPは細胞内でROSを産生しレドックスを変化させることにより、間接的にアポトーシス関連酵素の活性を抑制し、その結果アポトーシスによる細胞死を抑制したと考えられた。
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