研究概要 |
最近,同程度の侵襲でも過剰な炎症反応を引き起こす症例において,侵襲に対する個々の遺伝的な要因の関与が指摘されはじめている.我々は以前より病態の重症度判定,治療方針の決定,治療効果の判定の目的で各種のサイトカイン血中濃度を測定してきたが,侵襲の程度に比しサイトカインを過剰に産生する症例が散見され,これらの症例のサイトカイン産生の制御において遺伝的要素の関与が示唆された.一方,最近さまざまな疾患や病態の易罹患性を左右する遺伝子多型が注目されている.そして各種の遺伝子多型が敗血症などの侵襲感受性に関与していると考えられている.侵襲に対する生体反応にかかわる各種の分子は多岐にわたり,その遺伝子多型は数多く存在する.このため多くの遺伝子多型を効率よく測定可能なDNAマイクロアレイを用いて研究を行うことを目的に研究を計画した.そしてまず各種サイトカインであるTNF,IL-1ra,IL-1β,IL-6,IL-10,および自然兔疫に拘る分子であるTLR4,CD14の遺伝子多型を解析し,これらの血中濃度への影響および臨床経過への影響を検討し,以下の点を明らかにした. 1.遺伝子多型の同定:同意の得られたICU入室患者197名および健常者214名を対象にTNF,IL-1ra,IL-1β,IL-6,IL-10,TLR4,CD14遺伝子多型の同定をPCR-RFLPにて行った.その結果,IL-6(-174),TLR4(Asp299Gly,Thr399Ile)遺伝子多型は日本人には認められなかった. 2.次にこれらの遺伝子多型と各種サイトカインの血中濃度との関連につき検討した.その結果,血中IL-6濃度異常高値とTNF,IL-1ra遺伝子多型に関連を認めた. 3.さらにこれらの遺伝子多型と全患者および敗血症患者の重症度,予後との関連につき検討した.その結果TNF,IL-10遺伝子多型と敗血症患者の予後との関連を認めた. 4.本研究にて検討した多くの遺伝子多型頻度は日本人以外の人種で報告されている頻度と異なった.
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