研究課題
多生歯性であるCaiman crocodilusは槽生性で、機能歯は歯槽に丁植しており、それぞれの機能歯は通常2〜3代の後続歯胚を伴っている。それらの後続歯胚は歯堤と結合橋で連結した状態で機能歯の舌側に位置している。歯胚は発育するにつれて唇側に移動し、やがて結合橋も切れて順次機能歯と交換する状態を認めた。歯の交換が常時行われているワニでは、歯堤がいわゆる堤状(帯状)をなす状態も、また口腔上皮から個々に歯堤が歯胚に向かって雨垂れ式に陥入する状態も認められない。ワニの歯堤は上、下顎とも近遠心的に走行する一本の索状をなすもので、最後方機能歯の遠心部に至ってはじめて口腔上皮と連続していることが再確認された。したがって、これらの索状歯堤は槽間中隔を貫き、個々の歯槽内深部に位置する歯胚を芋蔓式に繋いでいる極めて他に類をみない特殊な形態をした歯堤であることが分かった。また、両側の歯堤は正中部において連続する状態も確認出来た。その様な所見をもとに今回はさらに多生歯性における歯堤と口腔上皮との連続性の意義を形態学的に解明する研究の一端として、口腔上皮と歯堤が連続する最後方機能歯の遠心部において両者の連続性を絶つ本格的実験を試みた。その結果、術後約2週の標本で上皮と歯堤の連続性が絶たれたことを再確認出来たが、今回の観察期間内における歯胚の発育状態に関しては、対照側のものと差が認められなかったため、現在さらに長期にわたる観察を続行中である。したがって、離断後における歯胚並びに周囲組織の変化に関する形態学的、免疫組織化学的ならびにin Situハイブリダイゼーションによる検索は今後に残された課題である。