研究代表者の秦野は、カンボジアにおける女性の心的外傷後ストレス障害の現状把握を行うことに努めた。女性への聞き取り調査を始める前に、カンボジア保健省精神保健副委員会長や精神科医から、現在のカンボジアにおける精神科疾患の現状を聞くことができた。患者には、紛争(ポル・ポト時代前後)による心的外傷後ストレス障害(PTSD)と思われるケースもあるが、確定診断を行うためのクライテリアを満たさないとのことであった。よって面接にあたっては、PTSDを検出するというより、紛争時代の経験と現在の精神的・身体的健康について聞きとりを行うこととした。手法としては面接に対する合意の得られた女性を対象者として、英語-クメール語通訳を介した半構成的質問紙を用いた面接を行った。合計41名の女性から情報を収集することができた。紛争時代から20数年を経た現在でも、日々の生活の中で当時の困苦を思い起こし、不安を覚え苦しんでいることが判明した。面接対象者41名中、思い出さないと答えたのは、二人だけであった。 紛争を経験した者への看護を提供するため、またそのカリキュラムを構築するために、紛争時代や直後の状況・困苦に基づく精神的危機状況に対する看護を考えるだけでなく、長期的な展望を持っての看護が必要である事がわかった。よって第2年度は、今年度収集した情報を元に、分析を深めたいと考える。 研究分担者のSchreinerは米国帰国時に、コネチカット州都ハートフォードにあるKhmer Health Advocateを訪問し、カンボジアからポルポト時代後に難民として米国に移住した人々の支援団体から聞き取り調査を行った。 秦野は、今回の調査を元に、比較思想学会福岡支部第53回大会において「カンボジア女性の健康問題〜ポルポト時代を経験した人々の面接調査から」ということで発表を行った。
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