まずニューロ的手法を導入した断熱的変化アルゴリズムについてはデバイスに対する依存性を調べ、本課題で目標としているSi系核スピンと超伝導量子ビットそれぞれについて、ハミルトニアンの計算方法、計算実行方法とその性能など基本特性を明らかにした。今年度で調べた範囲では、神経回路のシナプス荷重に対応する量子ビット間の相互作用が興奮性もしくは抑制性のどちらかのみが実現されるという欠点はあるものの、結合方法を工夫することによって所望の動作が可能であることがわかった。またエネルギー散逸効果を取り入れた場合の状態遷移を詳細に検討し、量子位相の制御方法に関して有用な知見を得た。 また製作面においては、高温超伝導体の固有接合(ジョセフソン接合)において、巨視的量子現象を観測し、量子現象の発現温度が1K程度であることがわかった。本結果はBi2212結晶においては世界初の成果である。金属系の超伝導体と比較して10倍程度高温であることから、実用化におけるBi2212結晶の優位性が確認された。また酸化物超伝導体つまりd波超伝導体では準粒子散逸が量子効果発現、ひいては量子ビット動作へ悪影響を及ぼすとの懸念があったが、その影響は非常に小さいものであることが本実験により実証された。これらの結果は国際会議などで報告された。Si核スピン量子ビットにおいては、溶存酸素を低減化したNH4F溶液におけるウェットエッチング法によるウェハの平坦化の実験を行い、原子レベルで平坦なSiウェハ表面を得ることに成功した。水素レジストを利用した原子リソグラフィーにおいては、水素を脱離されることに成功したものの、その微細な制御は来年度の課題となった。
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