2003年のKanekoらの報告によると、凍結乾燥後のマウス精子は4℃での保存が可能であることを示唆している。凍結乾燥用保存液の開発を目的とした本研究において、現行の保存液の有効性について検討することは重要である。そこで本年度、研究代表者はマウス精子の受精能を効率的に保持することのできる凍結乾燥法開発のための基礎研究として、Kanekoらの保存液で凍結乾燥したマウス精子の保存温度と受精能の関係について重点的に研究を行った。精子は十分に成熟(11週齢以上)したB6D2F1ハイブリッドマウスから採取され、Kanekoら(2003)の凍結乾燥用保存液を用いて凍結乾燥を行った。凍結乾燥後の精子は、4℃で一定期間保存した。その後精子は卵細胞質内精子注入法(ICSI)を用いて同系統(8〜16週齢)卵子内に導入した。得られた受精卵は正常に発生し、産仔にまで発生した。これらを対照区として、さらに凍結乾燥精子を異なる温度で一定期間保存した。すなわち、凍結乾燥精子を-70、-20、4および25℃で一定期間保存し、その後同様に精子をICSIにより同系統卵子内に導入した。得られた受精卵は、染色体解析および産仔への発生により受精能を評価した。その結果、4℃以下の保存温度において安定した結果が得られた。しかしながら、25℃の保存においては、他と比べ有意に低い値を示していると考えられる。さらに、現行法は凍結乾燥中のマウス精子へのダメージが大きいため、さらなる改良が必要であると考えられる。しかしながら、25℃という室温環境下においても、1ヶ月程度の保存は可能であるため、保存液、乾燥時の条件設定等さらなる研究の継続によりマウス精子の凍結乾燥における最適条件を確立できるものと考えられる。
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