研究概要 |
IARCモノグラフ第44巻によると、アルコール飲料は、口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、食道癌、肝臓癌の原因として認定されている(グループ1)。しかし、なぜ飲酒が発癌をひきおこすのかについて、その詳細なメカニズムは明らかになっていない。近年、研究代表者をはじめ何人かの研究者たちによって、エタノールの代謝産物であるアセトアルデヒドがDNA損傷や突然変異を引き起こすことが明らかとなり、アセトアルデヒドが究極発癌物質であるとする説が有力となってきた。エタノールはalcohol dehydrogenase(ADH2)によりアセトアルデヒドに酸化され、さらにaldehyde dehydrogenase(ALDH2)によって酢酸に酸化される。ADH2、ALDH2にはそれぞれ遺伝子多型が報告されており、特にALDH2の遺伝子多型はいわゆる酒に強い、弱いという表現系を規定している。久里浜病院の横山らが行ったアルコール中毒患者を対象とした疫学調査では、ALDH2の活性が弱い遺伝子多型(1/2型)を持つ人のほうが、活性の強い遺伝子多型(1/1型)を持つ人よりも食道癌のリスクが11倍も高かった。アセトアルデヒドによるDNA損傷が発癌を引き起こしていると考えられるが、アセトアルデヒドによって生じるDNA損傷は多種類あり、どの損傷が発癌に最も寄与しているのかは明らかになっていない。そこで本年度は、アセトアルデヒドが誘発する3種類のDNA損傷、N^2-ethyl-dG、N^2-(2,6-Dimethyl-1,3-dioxan-4-yl)-dG、1,N^2-propano-dGをLC/MS/MSを用いて同時に測定する系を開発した。これらのDNA損傷を、健常人とアルコール中毒患者の血液で測定したところ、アルコール中毒患者でN^2-ethyl-dGと1,N^2-propano-dGの値が有意に高かった。このことは、アルコールがアセトアルデヒドに酸化されてそれが血液中のDNAを損傷していることを示している。
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