研究概要 |
飲酒は食道がんのリスク要因である。アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)は、アセトアルデヒドを酢酸に酸化するもっとも重要な酵素である。ALDH2の遺伝子多型は食道がんのリスクと強い相関がある。これらのことから、アセトアルデヒドが飲酒による発癌の究極発癌物質であるとされている。アセトアルデヒドは、N^2-ethyl-dGやcrotonaldehyde-derived propanodeoxyguanosine (CdG)などのDNA損傷を引き起こす。そこで、人間の血液中のDNAを材料にして、DNA損傷とアルコールの摂取、さらにALDH2の遺伝子多型について解析を行った。ALDH2の遺伝子多型はPCR-RFLPで確認した。ALDH2^*1/2^*1(正常),ALDH2^*1/2^*2(ヘテロ欠損) and ALDH2^*2/2^*2(ホモ欠損)の3タイプに分類した。75名の健常人(ALDH2^*1/2^*1 25人,ALDH2^*1/2^*2 33人,ALDH2^*2/2^*2 17人)と112人のアルコール依存症患者(ALDH2^*1/2^*1及びALDH2^*1/2^*2 56人づつ)の血液を解析した。DNA損傷はLC/MS/MSを用いて測定した。アルコール依存症患者の血液DNA中のN^2-ethyl-dGとCdGのレベルは7.5±6.9 and 99±88 adducts per 10^8 bases,であり、これは健常人に比較して有意に高かった(4.2±6.0 and 15±24 adducts per 10^8 bases)。このことから、血中DNAのアセトアルデヒド誘発DNA損傷レベルは、アルコール摂取量の増加にともない、増加するということがわかった。しかしながら、これらのDNA損傷のレベルはALDH2遺伝子多型とは相関が見られなかった。今後は、アルコールの発癌標的臓器である食道組織について同様の解析を行う予定である。
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