走査プローブによるX線吸収測定の原理検証に主軸をおき、(1)電気特性を利用したX線吸収スペクトルの非接触測定、(2)X線の導入が可能な走査プローブ顕微鏡の開発、(3)局在電子を持つ系の(2)による評価を行った。 (1)については、金属を並行に並べたコンデンサに試料の銅板を挟み込み、試料表面にX線を導入することで、非接触でX線吸収測定が可能であることを見出した。すなわち、X線誘起電子放出により試料上の電荷量が変わり、それを検出することでX線吸収量が測定できた。これにより、表面極薄酸化膜と金属銅界面の電子捕獲中心のサイト選択的な測定が初めて達成された。 (2)については、外部からのX線(およびすべてのエネルギーの光子)が導入可能な、モバイルプローブ顕微鏡を次の設計思想に基づき開発した。通常レーザー光を使ってプローブにかかる微小な力を検出するのに対し、本装置では圧電素子を使って力検出することで、吸収測定用の光との干渉を避けることを可能にした。金・プラチナをコートしたプローブによりケルビンフォースを検出し、非接触で局在電荷量の測定を可能にした。装置全体をコンパクトにすることで大型放射光施設などへの持ち運びが容易にし、光源のあるあらゆる場所での実験を可能にした。 (3)については、半導体産業において極めて重要なシリコン表面極薄酸化膜を測定することで、原子ステップ端に電子が局在することを見出した。この系に本課題の手法を適用することで、局所X線吸収スペクトルから原子ステップ端のみの構造と電子構造が明らかにし、表面・界面化学状態の違いをnmの空間分解能でマッピングできることが期待される。またX線に先立ってレーザー光を導入し、この系の紫外光誘起特性を明らかにすることに成功した。このような特殊サイトの電子・光学特性はこれまでに全く知られておらず、大きな成果となった。
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