本年度行ったことは(1)開発した測定装置の特性調査のためのレーザーを使った物性測定、(2)本課題の手法検証のためのX線を使った基礎実験、である。以下に研究成果の概要を述べる。 (1)および(2)での測定試料は、半導体産業において極めて重要なシリコン表面の極薄酸化膜とした。この系に本課題の手法を適用することで、電子捕獲中心が形成される原子ステップ端の構造と電子構造が明らかになり、表面・界面化学状態の違いをnmの空間分解能でマッピングできるであろう。 (1)については、X線導入前の装置の特性評価として、試料表面の原子ステップ端に形成される電子捕獲中心にレーザー光を照射して、その光物性を測定した。レーザーをパルス的に導入してケルビンフォースプローブ顕微鏡の信号の時分割測定を行った。これにより電子の局在の動的特性を明らかにし、更にコンピュータシミュレーションにより電子の捕獲過程を解明することにも成功した。このような次世代デバイスで影響の大きい電子捕獲中心の光特性や電子捕獲過程は全く知られておらず、大きな成果となった。また、実験装置が予定の特性を満足していることが確認された。 (2)については、(1)有用性が確かめられた本装置にX線を導入し、X線吸収測定をおこなった。実験は英国ダラスベリー研究所の放射光施設で行った。実験の結果、特定の実験条件でX線吸収スペクトルが得られた。スペクトル形伏はこの系に固有のものであり、原子ステップ端の電子構造を示していると考えられる。またこの実験条件は、まさに原子ステップ端以外の部分での吸収の影響を最小にする条件であることから、本課題の重要なポイントである特定サイトの選択分析能力が裏付けられた。また、化学状態の空間マッピングの予備実験にも成功し、顕微分光の可能性が強く示された。
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