平成15年度は、6月にロシア共和国イルクーツク国立大学考古学研究室と共同研究の合意を取り交わし、北アジアにおける後期旧石器初頭段階の遺跡探査を目的とした共同調査を実施することとした。調査期間は、7月28日から8月18日にかけてで、チェレムシュニク1遺跡とバリショイ・ナリン1遺跡において日露共同調査を実施した。ロシア科学アカデミー低温研究所、イルクーツク大学地理学部、東京大学総合博物館年代測定室の協力を得て、チェレムシュニク1遺跡において確認された細石刃石器群の年代の同定を試みた。地質年代学的見当と理化学的手法による数値年代測定の結果、チェレムシュニク1遺跡において出土した細石刃石器群は、シベリア地域において最も古い段階の細石刃石器群である可能性が指摘できた。詳細な報告は共同研究者との共著として英文科学誌への寄稿を予定している。 一方、このチェレムシュニク1遺跡の状況を裏付け、より良好な資料を確保する目的でバイショイ・ナリン1遺跡における予備調査を実施した。本遺跡では、貯水池によって浸食された丘陵部を測量し、4万平方mの範囲に出土している2600余りの石器類を記録採集した。また隣接する丘陵部に試掘区を設定し、確認された石器群の出土層準を検討した。その結果としてカルガ亜間氷期に形成された古土壌層から動物骨と石刃を含む石器類を検出できた。これら二つの調査からもたらされた様々な情報を総合するといずれも5万年前から2.2万年前に位置づけられる酸素同位体ステージ3(OIS3)段階の石器群を確認したと評価でき、北アジアの後期旧石器初頭段階の石器群の出現過程を理解する上で良好な研究資料を得たことになる。 又同時にアルタイ地方で確認済みのカラ・ボム遺跡およびウスチ・カラコル1遺跡の石器資料の分析とデータ化を進めた。北海道島では桜岡3遺跡において細石刃石器群を試掘調査で確認することができた。
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