2カ年に渡る本研究全体の目的は、人々の態度と行動に及ぼされるネットワークの効果について実証的に検討することである。その特徴は、従来、ネットワークの測定が回答者の認知にのみに頼るか、あるいは、認知やその錯誤を無視してネットワークのみを測定するかの一方に偏っていた従来の研究スタイルを見直し、疑似ソシオメトリとスノーボール・サンプリングを組み合わせることで、新たな知見を見いだそうとするものである。ネットワーク、その認知を同時に視野に入れることで、ネットワーク効果についてより精緻な検討が可能になり、社会心理学領域に留まらず、社会学領域や社会ネットワーク分析の領域にも貢献をなしうると考えている。 今年度調査の目的は、来年度の本調査に向けた先行研究の収集、ならびにプリテストの実行である。先行研究の収集とレビューでは、パーソナル・ネットワークの公刊研究でもあり、また、スノーボール・サンプリングの先駆的事例でもある「パーソナル・インフルエンス」や、本研究が依拠する基本モデルを提示したPolitics in contextを始めとする、パーソナル・ネットワークの効果にかかる研究を中心に検討を行った。重要な知見は、むしろ古典的な研究において、ネットワーク効果や効果の源泉について、多様性や特殊性が重視されていたことである。また、普及学に関する先行研究からは、ネットワーク効果がすべての人々に均質な効果をもたらすのではなく、置かれた社会的位置によって、その反応が異なることが示唆されていた。このことは、マルチ・エージェント・シミュレーションを用いた研究でも示唆される。 そこで、プリテストでは、複数の社会問題に対する態度を測定し、各問題への関心や知識によって、ネットワーク効果が変動するのか、そこに予測可能なパターンが存在しうるのかが中心的な課題となった。さらに、研究対象地域を関東の都市圏から東北の村落部にまで地理的に拡散させることにより、社会問題に対する、外的な関与の度合いを操作することが試みられた。たとえば、環境汚染の問題などは都市部で深刻であるが、自治体の合併などは、東北地域においてより重要な問題である。こうした問題の重要性の地域差が、個人的な関心の差と同時に考えたとき、どのような変化をネットワーク効果にもたらすのかを検討した。 以上の成果が、平成16年度の本調査にフィードバックされる。
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