| 研究概要 |
パーソナルコンピュータを用いてディスプレーに複数の刺激を様々な奥行位置に異なるSOA(Stimulus Onset Asynchrony)で提示し,2つの刺激が同時に生じたと知覚されるために必要なタイミング条件を特定する実験を行った.刺激を異なる奥行位置に提示するために両眼視差手がかりを用いた.複数の刺激を異なる奥行位置に瞬間的に提示したいくつかの実験においては、相対的に観察者に近い奥行位置に提示された刺激出現はもう一方の刺激の出現よりも遅れて知覚されることが見い出された.また、その遅れの程度は刺激と注視点との奥行方向の距離が大きくなるほど顕著になった.他方、異なる奥行位置に予め提示していた刺激の前額平行面場での位置を変化させたり、等輝度のまま色彩を変化させた実験条件においては、相対的に観察者側の刺激変化の知覚が遅れるという傾向はまったく認められなかった.これらの結果は,刺激を瞬間提示した場合に相対的に観察者側の刺激の知覚が遅れるという現象が,奥行軸上での運動信号の処理過程の特性に基づくものであることを示唆している.
また、刺激が前額平行面上で移動する事態に関して、観察者のマウス移動と刺激運動を対応付けた場合、知覚の時間的精度が大きく向上することを見い出した.同様の知覚の時間的精度の向上は、観察者によるマウスの移動と刺激の明度変化を対応付けた場合にも認められた.これらの結果は、自動的に変化する刺激を受動的に観察する場合と,観察者が能動的に刺激変化に関与する場合とでは,視覚の時間的特性が異なることを示唆している.今年度の研究では,刺激の運動と連動させたのはマウスの位置のみであったが、3D空間における視覚の時間特性を明らかにするためには、運動視差手がかりを提示する際に伴われる観察者の視点移動にも同様の効果があるのか検討する必要がある.
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