国内の全商用原子炉から原子炉の燃料の初期ウラン量と熱出力の時間変化を入手し、また、熱出力の変遷から燃料の組成変化を計算するプログラムを開発したことにより、ニュートリノ事象数の予測を2.3%の精度で行うことが可能となった。また、検出器内につり下げた放射練源および一様に分布する宇宙線ミューオン起源の不安定原子核の崩壊を利用したエネルギーおよび位置再構成の較正により、カムランドでの原子炉ニュートリノ測定の系統誤差を6.4%にまで小さくすることができた。さらに検出器内全体に放射性物質を配置することができる吊下げ型のビラーを試作しており、これにより系統誤差の更なる改善を目指している。145日分の原子炉ニュートリノの測定では、原子炉ニュートリノ欠損の証拠をつかみ、太陽ニュートリノ実験の結果と合わせることで、ニュートリノ質量および混合角を大混合角解と言われる領域に特定することに成功した。この結果は既に科学雑誌に掲載されており、これにより30年以上にわたった太陽ニュートリノ問題が解決した。現在では、この結果発表からさらに検出器の較正を進め、有効体積の拡大に成功し、データの蓄積と相まってニュートリノ事象数約5倍にすることができており、このデータを使って、ニュートリノスペクトルの歪みを検証し、カムランド実験単独でのニュートリノ振動の証明を目指している。さらに、低エネルギーのデータから地球ニュートリノ事象の証拠を導き出すことを行っており、これに成功すれば、ニュートリノでの地球内部観測が可能となる。現在までの研究で、地殻厚の世界地図、表面組成の日本地図、神岡鉱山内カムランド近辺の組成図の作成を完了し、地球ニュートリノの観測に成功すれば、近傍からのニュートリノの寄与を差し引くことによって、地球内部マントルからのニュートリノ量を評価する準備が整ってきており、ニュートリノ地球物理が誕生しつつある。
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