本年度の研究目的は、研究の母体となる特殊な冷却原子集団、すなわちスーパー磁気光学トラップ(スーパーMOT)を生成することであった。今回我々は、このスーパーMOTを実際に生成することに成功した。具体的には、長さ約30cmの真空ガラスセルに、20cm程度まで細長く引き延ばしたチタンサファイアレーザーの出力を照射し、さらに細長い形状を有する四重極磁場を配置することにより、一方向に大きく引き延ばされた磁気光学トラップを生成することに成功した。量子情報処理を原子媒体を用いて行う場合、1.密度×相互作用長(光学密度)が大きいこと、2.スピン緩和時間が長いこと、3.生成速度が早いこと、4.相互作用時のバンド幅が十分にとれること、の4つが重要となってくる。1については、現時点で最も大きな光学密度を利用することが出来るとされるボース凝縮体と全く同じ光学密度を実現した。また3については、常時生成を実現した。4については、当初の予定とは異なり、共振器構造抜きで大きな光学密度を実現できたため、現時点で構造上バンド幅を制限するものはないといえる。2については、次年度以降の研究を通して、スピン緩和時間を測定する予定ではあるが、従来からよく知られている磁気シールドを使用すればよいだけなので、問題が生じる可能性は全くない。このように本年度の研究目的を、我々は完全に達成することが出来た。なお、今回得られた光学密度は、照射するレーザーの空間モードの乱れによって、制限されていた。すなわち、レーザー冷却時の光の輻射圧にアンバランスが生じることによって、冷却原子集団の長さが制限されてしまった。これは、チタンサファイアレーザーの出力をそのまま使用したことによるもので、シングルモードファイバー等によるモード整形によって、原子集団の長さを改善し、現在よりさらに1桁高い光学密度を得ることが出来ると我々は考えている。
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