平成15年度の研究を通し、我々は研究の母体となる特殊な冷却原子集団であるスーパー磁気光学トラップ(スーパーMOT)を作成することに成功した。得られたスーパーMOTの光学密度は、ボース凝縮体のそれに匹敵するものであった。平成16年度は、このスーパーMOTをよりコンパクトな系に改良すること、及びスーパーMOTを用いて実際に行っていく量子情報処理の予備実験を行った。原子集団を用いた量子情報処理として、我々は「量子メモリ」と「原子の量子テレポーテーション」の二つを実現することを目的として研究を進めている。前者を実現するには、原子の共鳴波長において非古典的な光場を生成する必要がある。これについては、疑似位相整合素子を用いてルビジウム原子と共鳴する真空スクイーズド状態を生成することに成功した。さらに、量子メモリの鍵となる電磁誘起透明化現象が真空スクイーズド状態に対しても働くことを世界で初めて実験的に証明することに成功した。(この結果は、Physical Review Lettersに出版された。)後者を実現するために、我々は集団励起状態とスピン自由度とを組み合わせることで、容易に原子集団間にエンタングルメントを生成する新しい手法を提案し、その予備実験を行った。現在は、MOTのかわりにガスセルを用いて実験を行っているが、集団励起状態を形成することに既に成功しており、平成17年度からは、スーパーMOTを用いて本実験にはいることが出来る。
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