水の結晶化の初期に生成される非晶質構造の特徴を詳細に解析するために、水の中距離ネットワークトポロジー(部分グラフ)を抽出し、それらを分類、計数する手法を開発した。水分子が形成する、3次元にパーコレートしたネットワークの中から部分ネットワークをうまく切り出し、それらをグラフ理論の手法に基づいてデータベース化し計数するとともに、温度変化や、結晶化の進行に従い、どのような部分ネットワーク構造が増え、あるいは減るのかを詳細に追跡することが可能となった。このような多変量による構造解析手法を用いることで、水の結晶化過程のように、複数の未知の準安定相が複雑に関与する構造変化過程において、あらかじめ準安定相の詳細をしらなくても構造の変化を検知できる。また、各断片の存在比率を、構造同士を区別する「指紋」として利用することもできる。 結晶核が形成される以前の過冷却水の中にも、構造が固い領域がいろんな場所で間欠的に形成されている。水素結合の寿命で言えば、短寿命の水素結合と長寿命のそれとでは2桁以上の開きがあり(10ps〜1ns)、過冷却水中の分子運動は極めて不均質である。上記の部分ネットワークを解析する手法を用いることで、核生成のごく初期には、水素結合が固く(結合エネルギーが低く)、コンパクトな構造の、水分子十数分子からなるフラグメントが多数形成され、これが凝集した低密度アモルファス的な中距離構造が、結晶構造形成のための足場となっていることがわかった。
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