我々は、液体から固相が均一核生成により形成される微視的過程を明らかにすることを目標としている。計算機シミュレーションによる、過冷却水からの均一核生成過程のごく初期に形成される核について、それを形成する水素結合ネットワークの部分ネットワークトポロジーを網羅的に抽出しデータベース化する手法を考案した。この手法を用いた結果、核生成の初期に、非晶質的な構造を持つ数種類のフラグメントが増加することがわかった。これらのフラグメントは、水素結合が形成する六員環のみならず、五員環や七員環をふくんでいるものの、結合角が左四面体型に近いために、単体では結晶のフラグメントと同等に安定な構造であるが、結晶のような長距離秩序を形成することはできないため、核生成の初期、あるいは固液界面に特有の過渡的な構造であると考えられる。 過冷却水とよくにた温度密度特性を示す過冷却液体Siのシミュレーションを行い、液液相転移の再現、均一核生成から結晶化に至る過程で生まれる局所構造の詳細な解析を行った。水の場合とはちがい、過冷却液体シリコンにはすでに結晶様構造のフラグメントが多数存在し、結晶化はそれらを核として進行することがわかった。また、モデルシリコン原子の相互作用パラメータを人為的に変化させたところ、わずかな変化で液液転移温度は大きく変動することがわかった。このことは、Siの(おそらくは水も)液液共存温度がきわめて微妙なバランスの上に成り立っていることを示唆している。
|