研究代表者らは多核遷移金属錯体として硫黄の強固な架橋能に着目した硫黄架橋2核ルテニウム錯体を選び、この2核錯体を用いた時にのみ特異的に進行する新規な触媒反応の開発に既に成功している。触媒量の硫黄架橋2核ルテニウム錯体存在下、プロパルギルアルコールが種々の求核試薬と反応し、対応するプロパルギル位置換生成物を高収率かつ高選択的に得られるプロパルギル位置換反応がそれである。化学量論反応および触媒反応の結果から、本触媒反応はその興味深い反応性を示すことが知られていながら、触媒反応の鍵中間体として用いられることが無かったアレニリデン錯体を経由して進行していることが明らかになった。これらの研究背景を踏まえ、上記の触媒反応の鍵中間体となっているアレニリデン錯体に着目し、この興味深い錯体の反応性を利用した新規触媒反応の開発をさらに精力的に行うこと、また、その反応機構について理論計算からのアプローチを含めて詳細に検討することの2点について研究を行った。 分子設計に基づき考案した光学活性基を架橋硫黄部分に導入した新規な硫黄架橋二核ルテニウム錯体を合成・単離し、これらの錯体を用いたエナンチオ選択的なプロパルギル位置換反応の開発に成功した。本触媒反応に関する実験を行っていた外国人研究者を研究支援者として招聴し、より迅速に研究を推進させることができた。 また、東京大学理学系研究科教授中村栄一先生との共同研究により、上記の触媒反応における硫黄架橋2核ルテニウム錯体を用いたときにのみ特異的に進行する触媒反応の詳細な反応機構を明らかにすることができた。
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