次世代のデバイス材料として、光機能と電子機能を有するπ共役ポリマーに着目し、1分子デバイス創製を目指したポリマー1分子の直接観測に関する基礎研究を進めた。ポリマー1分子デバイスを実現させるには、デバイスの形態となる基板表面上に置かれた1分子の直接観測に基づく基礎科学の確立が不可欠である。本研究において、原子間力顕微鏡(AFM)を駆使することによって、マイカ基板表面でキラルらせんπ共役ポリマー1分子が特異的なナノ構造を形成することを発見し、このπ共役ポリマー1分子構造の多様性を議論した。さらに、電流検出AFM(CS-AFM)によりポリマー1分子の導電性を評価した。 AFM観測試料はスピンキャスト法により以下のプロセスで調製した。大気中室温下、ポリマーをテトラヒドロフラン(THF)溶解して希薄溶液を調製した。マイカあるいはグラファイト(HOPG)の洗浄表面を回転させながら、ポリマー溶液をキャストして室温下大気中で乾燥させ、これをAFM観測した。 キラルらせんポリマー[(-)-Poly(MtOCAPA)]のノンコンタクトモードAFMイメージングを行い、得られたAFM像の断面を解析した結果、1分子鎖の太さに一致したことから、観測されている構造体はポリマー1分子であることが確認された。さらに約20nmの周期構造が確認出来た。これは、ポリマー鎖の右巻きらせんが形成する周期的な粗密構造であると考察した。基板表面では、太さが2nm程度のキラルらせんポリマーが20nmもの長周期のナノ構造を形成しているという、モノマー繰り返し単位構造だけでは決して予想できない結果を得たことに、ポリマー1分子の高分子性(すなわち個性)の研究と1分子素子の基礎研究として価値があると考えている。また、この周期には10から40nmの間の広い分布が確認され、構造の多様性が評価された。さらにCS-AFMをHOPG上で実施したところ、(-)-poly(MtOCAPA)1分子の凹凸像と電流像を同時に観測することに成功した。ポリマー1分子の導電性はHOPGと同程度と極めて高いものであった。この実験事実は、ポリマーが孤立1分子の状態でHOPG表面に吸着した結果、HOPG表面のπ電子系と相互作用して、新たな電子構造が形成されたことを示している。基板表面上に形成される特異構造によつて発現する革新的な機能の発見と分子デバイスへの進展が期待される。
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