研究課題
ポリマー1分子の構造と機能を直接観測することが出来れば、仮定や推測を最小限に抑えることが可能になり、最も明確にポリマーの構造と機能の相関関係を議論できる。これにより、高分子の本質を深く理解することができ、ひいては分子デバイスの創製に発展すると考えた。本研究課題では、数有る合成高分子の中でも特に光機能や電子機能を有する機能性高分子である、π共役ポリマーの1分子構造と機能の「しなやかさ」に着目して研究を展開し、以下の実績を上げた。キラルらせんπ共役高分子であるポリ(置換フェニルアセチレン)のポリマー1分子鎖のキラルらせんに基づく高次構造の走査トンネル顕微鏡(STM)による直接観測で右巻きのキラルな4次構造の存在は既に明らかにしているが、さらに今回、キラルらせんπ共役ポリマー1分子の導電性イメージングに成功し、基板表面に直接吸着したポリマー1分子の高い電子伝導性を発見した。そしてポリマー1分子の基板表面との相互作用と電子状態を考察することが出来た。「しなやか」なポリマー特有の多様な構造と電子伝導が明らかになった。次に、発光高分子鎖の構造と機能の同時イメージングを実現した。新しい顕微鏡の開発と観測の結果として、分子間相互作用で連結された超分子π共役ポリマー鎖のネットワーク構造が示した、マイクロメートルオーダーの長距離相互作用発光現象を発見した。「しなやか」なポリマーであるからこそ容易に形成可能なネットワーク構造に基づくポリマーの新しい発光現象であり、この研究成果は国際学術誌の表紙を飾った。最後に、キラルらせんπ共役高分子鎖1本の有機溶媒(n-オクチルベンゼン)中における動態のイメージングに成功した。この動態が熱ゆらぎに基づくミクロブラウン運動であること明らかにした。すなわち、変位を解析した結果、高分子1本鎖内の観測点の1次元変位の自乗平均が時間に1次比例し、アインシュタインのブラウン運動の法則<x^2>=2Dtに従ったことからこれを証明した。ある観測点の高分子鎖末端の速度は平均67nm/sと計測された。紐状構造体の大きさは、計算された分子モデルからの値とほぼ一致したことから、観測された構造体はポリマー1分子であると結論した。幾つかの分子を同時に観測すると、それらは同期することなくランダムに運動「ブラウン運動」していることが分かった。1分子で自己凝集しているポリマーが変形したり、環状に屈曲していた1分子が伸びきり鎖状態に変形する運動などが直接イメージングできた。即ち、π共役高分子鎖1本の「しなやかさ」を明らかにした。
すべて 2006 2005
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