フェムト秒レーザーパルスを金属表面に集光することによって発生するパルスX線を、実用可能なレベルにするために、長時間安定にX線を供給するテープ型パルスX線装置を開発した。この装置によって、最長130時間の連続運転が可能となっただけでなく、X線射出部に配置した偏向磁場によりX線回折信号のS/N比を飛躍的に向上させることに成功した。また、この装置を用いて、一回の放射における単位立体角当たりの銅特性X線のフォトン数を10の8乗個発生させることにも成功した。この改良に伴って、従来は困難であった粉末からの回折像をも測定可能となり、より多くの研究対象への応用が可能となった。 放射されるX線のパルス幅は実験的には測定が非常に困難であるが、本研究課題の目的にある時間分解X線回折実験において、最も重要な因子である。したがって、金属表面へのフェムト秒レーザー照射にともなうパルスX線放射に関するモデル計算を、モンテカルロ法を用いて構築し、発生するX線のフォトン数やパルス幅、その原子番号依存性やエネルギー依存性を明らかにした。この計算の結果、発生しているX線パルスのパルス幅は、およそ数百フェムト秒であることが示され、レーザーのエネルギーが高いほど、また、軽元素ほどX線のパルス幅が延びる傾向にあることが明らかになった。一方で、重元素ではパルス幅が短くなるものの、K殻励起エネルギーとレーザーが誘起する電子温度との関係から、特性X線の収率を最も高くするための最適化が必要であることも明らかとなった。
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