研究概要 |
本年度は,せん断流中を変形するジャイアントベシクルに関して,実験装置の作成および連続体スケールと分子スケールの2種類の異なる数値計算コードを用いた解析を行なった. 実験においては,逆回転する2つの同じ大きさの円柱のすき間に単純せん断流を作り出す実験装置を作成し,昨年度構築したPIVシステムにより速度場の計測を行い,適切な単純せん断の流れ場が作られていることを確認した.さらに,その単純せん断流中に作成したジャイアントベシクルを流し,顕微鏡の観察領域に入ってきたベシクルに関して,その変形とベシクルの傾き角を調べ,既存の理論との比較を行なった.現在のところ得られている実験結果は,実験データのばらつきは多いものの,理論と良好な一致を示す結果となっている. これに対応して,数値計算の方では,昨年度開発を行なったImmersed Booundary法をさらに単純せん断流中の変形ベシクルに関する3次元計算へと発展させ,非定常な変形挙動を含めて解析を行い始めている.さらに,ベシクルの変形挙動に関する数値計算を分子レベルの現象と関連づけるため,散逸粒子動力学(DPD)法の開発を行い,1)脂質2分子膜の挙動に関する分子動力学(MD)法による結果との比較,2)単純せん断流中におけるベシクルの変形に関する連続体の計算との比較を行なっている. 以上,赤血球などのベシクルの変形挙動は,例えば毛細血管内における膜を介した酸素輸送に影響することが知られている.また,膜融合などを伴う輸送を考える上でも,膜小胞体の変形挙動は重要となってくる.そのため,上に挙げたようなミクロスケールからメゾスケールにいたる解析手法の開発は,実際の輸送メカニズムを解明する上で強力な解析手段となる.
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