本研究はボロン正20面体クラスター固体において、ホール効果を暗中および光励起下で測定し、そのキャリアダイナミクスを解明することを目的としている。本年度研究においては、ボロン正20面体クラスター固体の代表格であるβ菱面体晶ボロン(βボロン)において定常レーザー光を照射した場合の光伝導を室温から約50Kの低温に渡って測定した。その結果、βボロンの定常光照射下での光伝導強度は温度を下げるに従って一度減少し、約150Kを境にして再び増大することが新たに明らかになった。またこの測定を行う際に、約200mWのレーザー光を照射し始めてから光伝導強度が定常状態に達するまで100000秒のオーダーの時間を要することが明らかになった。150Kまでの温度の低下に伴う光伝導強度の減少(熱活性化過程)は、これまで考えられているギャップ内の局在状態にトラップされた電子の熱離脱に支配される光伝導によってうまく説明できるが、150K以下の低温での温度の低下に対して強度が増大する振る舞い(逆熱活性化過程)は別の支配機構の存在を意味する。一方、DV-X_α法によってβボロン中に存在するクラスターの電子状態計算を行い、さらに結晶構造を検討した結果、いわゆる伝導帯の直下に状態密度の大きな局在状態が存在することが示唆された。上記の逆熱活性化過程の機構は、この局在状態にトラップされた電子が低温では熱離脱できなくなり、結果として生じるホールキャリアが増大することによると仮定するとうまく説明できる。本年度はこの他、βボロンにおけるホール効果の測定、ホール効果測定装置への光導入型低温クライオスタットと礼起用レーザの設備を行った。本年度得られた上記仮説は、来年度に計画しているβボロンや金属ドープβボロンの光励起ホール効果測定によって確かめられる。
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