水素クラスター型(錯体)水素化物としての「軽量金属(M)-ホウ素(B)-水素(H)系材料」や「軽量金属(M)-チノ素(N)-水素(H)系材料」などに注目して、これらの錯体水素化物に対して適切な金属水素化物(あるいは他の錯体水素化物)を複合化することによって極めて有用な水素貯蔵機能が発現することを予測した。そして実際に水素クラスターを有する新たな複合材料の合成とその評価を進めた。主な成果を以下に示す。 1)錯体水素化物と金属水素化物との複合化に関しては、「低温で分解する錯体水素化物」と「錯体水素化物からの副生ガスとの反応性が高い金属水素化物相」との複合化か有効であることを理論的に予測した。そして、たとえば3Mg(NH_2)_2+12LiH⇔Mg_3N_2+4Li_3N+12H_2に示す可逆的反応が進行することを実験的に確認した。この反応では、従来材料の3〜5倍の質量水素密度に相当する9質量%以上の高密度水素を貯蔵することも可能であり、さらなる基礎物性の解明と応用展開が期待される。 2)錯体水素化物同士の複合化に関しては、新しい反応経路の設計か重要であることを見出した。例えば、約12質量%もの高密度水素を貯蔵するLiBH_4とLiNH_2の複合材料では、LiBH_4+2LiNH_2⇒Li_3BN_2+4H_2に従う反応により錯体水素化物の水素クラスターが分解され、LiBH_4単独の場合より150〜200℃も低い温度領域で水素放出反応が進行することを見出した。現状では再水素化反応などに技術的課題が残されているが、錯体水素化物同士の適切な複合化によって単独の場合と比較してより優れた水素貯蔵機能を設計できることを示したはじめての反応例であり、新たな材料設計指針として注目できる。 さらに、関連構造としてのペロブスカイト型錯体水素化物の合成にも成功しており、水素化・脱水素化反応の可逆性および水素欠損にともなう伝導特性の変化なども評価・解析した。
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