Mo-Si-B三元系内の遷移金属ボロシリサイドの機械的性質について、これまで単結晶を用いて明らかにしてきた。本研究では、機能材料として、遷移金属ボロシリサイドとその関連化合物の基礎物性を調べた。 1)高温材料のコーティング材料として、Mo-Si-B三元系を利用する試みを検討した。これまで、パックセメンテーション(PC)法を用いてMo_5SiB_2+Mo二相共晶合金上にMoSi_2コーティングを施し、1300〜1500℃の温度範囲でMoSi_2と同等の耐酸化性を示すことを明らかにした。高温酸化中に、MoSi_2コーティング層と基材とが反応し、Mo_5Si_3拡散層が形成される。本研究では、PCによるMoSi_2コーティング層および拡散層の形成の速度論、拡散層中の相互拡散について定量的に明らかにした。その結果、Mo-Si二元系と比較して、Mo-Si-B三元系ではMo_5Si_3拡散層の成長速度が一桁遅くなる。これは、Mo_5Si_3拡散層の相互拡散に三元系と二元系で差異がなく、相互拡散の差異で説明することはできない。Mo-Si-B三元系では、Mo_5Si_3層と基材の界面でMoB粒が形成し、そのMoBがSiの拡散によりMo_5Si_3に変態する反応が生じる。この反応が、Mo_5Si_3拡散層の成長速度の低減に影響を与えていると考えられる。また、基材をMo_5SiB_2単相材とすると、拡散層はMo_5Si_3単層ではなく、Mo_5Si_3層とMo_5Si_3+MoB層の2層となる結果を得た。基材により拡散層の形成に差異が生じる原因は、MoSi_2形成時に基材から吐き出されるBを吸収する機構が異なるためである。 2)遷移金属ボロシリサイドの熱電特性を検討した。遷移金属ボロシリサイドに見られるフェルミ面近傍の状態密度のくぼみに着目し、フェルミ面をくぼみの中心付近にシフトさせる目的で遷移金属の置換を行った。状態密度計算より予測される組成を有する(Mo、V)_5SiB_2等を作製したが、ゼーベック係数の顕著な増加は得られなかった。 3)2)に関連して遷移金属ボロシリサイドの電気抵抗、熱伝導、熱電能の基礎物性を、単結晶を用いて調べ、電気および熱の輸送現象について考察した。
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