本年度は、本研究目的である結晶構造解析システムの要となる回折X線像の測定系を中心とした研究開発を行った。カラーラウエ像を習得するのに必要な検出器の性能について、以下の二点の研究項目を重点的に実施した。(1)エネルギー分解能の向上:この特性はカラーラウエ像においての色情報に相当し、高精度な実験結果を得るためにはX線検出器の性能として最も本質的なものである。本研究では、検出器に高エネルギー分解能が可能な超伝導転移型マイクロカロリメータを適用し、その検出器内部の分解能制限要因について実験により考察した。極低温走査型放射光顕微鏡でμmまでコリメートしたX線を照射したところ、内部に6eV程度の有意な差が見られ、この内部応答分布が分解能を劣化させる要因として大きく寄与していることを明らかにした。(2)検出器の二次元化:ラウエ像取得をするためには、X線のエネルギー情報だけでなくその入射位置を同定する必要がある。そこでX線の色情報と位置情報を同時に観察することを目的として、カロリメータの二次元化を行った。ピクセル型のカロリメータアレイを10個ないし20個配置したデバイスを試作し、X線照射により位置情報の取得を試みた。特性評価の結果、コリーメートX線に対しては分解能13eVを保ちつつ、ほぼ全ピクセルに対するX線入射位置を同定することに世界で初めて成功した。これにより、時間情報、位置情報、色情報の同時取得が可能なシステムの構築の実現に向け展望を開くことが出来た。以上、(1)、(2)の成果は国際学会で報告するとともに、雑誌論文としても発表を行った。 また、X線回折像取得に必要な測定系の整備として、高エネルギー研究加速器機構の放射光施設のビームライン上にX線測定系を高い位置精度でアライメント出来る装置を試作した。これにより、来年度の本格的なラウエ像取得に向けた実験系全体を整えることが出来た。
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