研究概要 |
オオシロアリHodotermopsis sjostedtiの兵隊分化過程において,昨年度同定を行った特異的発現遺伝子の発現動態などに関して,本年度は更なる詳細な解析を行った.昨年度導入したリアルタイム定量PCR装置を用いた発現動態の解析により形態形成に重要な働きをすると考えられるCiboulot遺伝子やCytochrome P450が兵隊分化において重要な働きをすることがわかっており,本年度はそれらの遺伝子の組織中における発現の局在をin situハイブリダイゼーションや免疫組織科学を用いて解明した.その結果,Ciboulotは兵隊分化の大顎形成に重要であり,P450は幼若ホルモンにより脂肪体での発現が抑制されることがわかり,今後の研究の足がかりを築いた.オオシロアリにおいては,RNA干渉法などを用いた遺伝子機能の解析の開発にも着手した. また,遠縁なシロアリであるタカサゴシロアリにおける兵隊特異的遺伝子の同定にも成功し,直接攻撃行動と関連性のある分子であるという強い示唆が得られた. 本年度はトゲオオハリアリDiacamma sp.やツヤオオズアリPheidole megacephalaに加え,ワーカーと女王の中間的な個体が出現するカドフシアリMyrmecina nipponicaのカースト分化も加えることにより,アリにおけるカースト分化と無翅化機構の進化の謎に迫ることを試みた.カドフシアリの中間カーストはワーカーへ分化する予定の個体が発生の途中で繁殖虫へと発生運命を切り替えることで出現するらしいことが,現在までにわかっている.このようにカーストの分化決定と発生分化のスイッチ機構に関して様々な知見が蓄積した. 本年度は8月に日本進化学会(東京),国際昆虫学会議(Brisbane),9月に日本昆虫学会(札幌)に参加して研究成果を報告し,国際的な科学雑誌に多くの論文を公表した.
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