本研究の目的は、分子マーカーを用いて日本の本州中部高山帯に生育する「高山植物」の分布変遷の歴史を明らかにすることである。今年度は、主に解析試料のサンプリングおよび実験設備の整備を行い、データを効率よく出せるような体制作りを行った。夏季には本州中部および東北、北海道の12山岳の集団から高山植物32種類(16科23種9変種)を対象にDNA解析用のサンプリング調査を行った。また研究室にDNAシークエンサー(ABI PRISM 3100-Avant Genetic Analyzer (Applied Biosystems社))を導入し、DNAの塩基配列データが出せる体制が整えることができた。 現在、葉緑体DNAのtrnT-trnFの遺伝子間領域の塩基配列をもとに集団間の遺伝的変異を検討している。その結果、チングルマでは変異が検出されなかったが、その他の種では集団間変異が検出された。エゾシオガマ、ミネズオウ、イワヒゲ、ミヤマダイコンソウなどでは比較的多くの変異が検出された。ミヤマタネツケバナ、クモマスズメノヒエ、タカネヨモギ、シナノキンバイ、イワスゲ、ウサギギクなどでは比較的変異は少なかった。さらに集団間変異の検出された種の中で、エゾシオガマ、ミネズオウ、ミヤマタネツケバナなどでは明瞭な地理的構造が認識された。各種とも本州中部の集団と北方地域との遺伝的分化が見られ、さらに前2種では本州中部内においても地理的構造が認められた。エゾシオガマでは(大雪山、飯豊山)(白馬岳、白山)(木曽駒ヶ岳、赤石岳)の3グループに、ミネズオウでは(大雪山、飯豊山)(白馬岳)(八ヶ岳、赤石岳)の3グループに分かれる形質が観察された。本解析結果については3月の日本植物分類学会広島大会にて発表予定である。来年度は解析する集団数や領域(核マーカーも検討)を増やし、種間で見られる遺伝的な地理的構造を比較し、共通パターンが見られるかどうかを検討する予定である。
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