既存の網膜由来試料からの3次元結晶を用いた実験では、顕微分光測定システムによる温度設定・光照射条件検索と可視吸収変化測定、発色団レチナールの異性体分析とから中間体生成の最適条件を決定した。この過程で、結晶化条件の大幅な改善が達成されるという16年度に計画していた成果が得られた。即ち、最大X線回折限界が2.5Åから2.0Åまで拡張し、また解析上好ましくないmerohedral twinningの度合いも大幅に減少した。これらの結果を踏まえて、基底状態の精密構造解析と光刺激直後に起こる僅かな構造変化が検出可能と判断し、暗中及び光反応中間体(バソ、ルミ、MI、MII)のうち最初に生成するバソロドプシンの集中的なデータ収集・解析を行った。不活性型GPCRの唯一の高分解能モデルである基底状態の構造は、2.2Åでの精密化が完了し、これまで一部欠けていたポリペプチド鎖を完全なものにすることができた。また、この分解能の向上により、発色団である11シスレチナール自身や結合部位の詳細がいっそう明確になり、分子動力学計算等の手法による理論的な検証に耐えうる精度に近づくことができたといえる。一方、液体窒素温度近傍に維持したロドプシン3次元結晶について光刺激を加えて生成したバソロドプシンについても、その構造モデルを2.6Åで構築することができた。その結果は、インバースアゴニスト結合状態にほぼ固定された蛋白質環境の中でのレチナールの異性化反応により、非常に捩れたアゴニスト(オールトランスレチナール)が生成することを明確に提示している。これらの研究と平行して、活性型に近い構造を示すと考えられる変異蛋白質のデザイン及び安定発現系の構築を進めた。また、現在のロドプシン結晶化過程においてG蛋白質の部分ペプチドを導入し、その複合体構造を解析する研究もスタートさせた。
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