昨年度までに決定した視覚の光受容体ロドプシンの光反応初期中間体であるバソロドプシンの結晶構造モデルは、湾曲したポリエン鎖を持つ発色団レチナールの歪んだオールトランス型構造を提唱した点で非常に貴重なものである。一方、解析に用いたX線回折は2.6Å分解能までの比較的低分解能データであるという点で、更なる検証が必要と考えられた。そこで、密度汎関数法に基づく構造最適化・量子力学的計算を行い、構造モデルの安定性及び様々な分光特性等の観点からの妥当性を調べた。発色団構造そのものについては、各々の結合長、結合角、捩れ角を入力値である結晶構造と比較したところ、主に二重結合周りの捩れ角により歪んだ湾曲構造を形成していることが再現され、その程度を示す一つのパラメータと見なせるコークスクリューピッチもよく一致していることが示された。また、中間体に特徴的な可視吸収極大波長、円偏向二色性、ラマン散乱ピークなどの分光特性についても、過去に報告されている測定結果を再現できていることが確認された。更に、活性化過程に重要な構造変化を行うために必要な光エネルギー蓄積メカニズムに関しては、発色団自身の寄与が定量的に見積もられたため、近傍タンパク質部分との相互作用に依存する部分についても貴重な知見が得られた。一方、昨年度に決定した次の中間体ルミロドプシン以降の活性化に関する研究、特に創薬標的GPCRとの関連で重要と考えられるアロステリック制御候補因子の検索・ロドプシンとの複合体結晶構造解析を行い、結合部位に関する予備的な知見が得られた。また、構成的活性型変異体の大量発現から結晶構造解析や、G蛋白質との複合体の三次元結晶化についても、特に重要な試料作成の面での進展を得ることが出来た。
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