研究概要 |
マウスの前後軸形成は、E5.5の時点で胚遠位に存在する遠位臓側内胚葉(distal visceral endoderm:DVE)が将来の胚前方へ移動することで開始する。移動によって胚前方に位置した前方臓側内胚葉(anterior visceral endoderm:AVE)は、Nodal阻害因子(Lefty1,Cerl)を分泌することでNodalシグナルを胚後方へと限局し、その結果胚後方には原条が形成される。nodal及びそのシグナル経路の変異体では、DVEの移動そのものが生じないことが報告されていたが、DVE移動の分子メカニズムはこれまで理解されていなかった。 私たちは、Nodal阻害因子(Lefty1,Cerl)の発現がDVEが移動する以前に非対称に発現していることを見いだした。DVEマーカーであるhexの発現がまだ胚遠位に位置している時点で、両遺伝子は遠位臓側内胚葉で既に傾いて発現していた。Lefty1,Cerlの発現域はその後、傾いた方向へ移動していき胚前方になることから、両遺伝子の非対称性はDVE移動の方向を事前に示している事になる。このような発現様式から、Lefty1,CerlはNodalシグナルを非対称に抑制する事でDVEの移動をもたらすと考えられた。そこで、嚢胚形成前の胚に対する遺伝子異所発現法を確立し、両因子のDVE移動における作用を検討した。臓側内胚葉で非対称にLefty1もしくはCerlを異所発現させたところ、DVEが異所発現部位の方向へ移動していき、逆にNodalを異所発現させたところ、DVEはNodal発現部位から離れるように移動することが明らかになった。以上より、Nodalアンタゴニストとして働くlefty1,cerlの遺伝子発現の非対称性がその後のDVEの移動を引き起こす事が明らかにされた。
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