植物は抵抗性タンパクを介して、病原体の侵入を認識し様々な防御反応を誘導する。最近の研究から抵抗性タンパクは複合体を形成し、病原体の多様なシグナルを認識している可能性が示唆されている。しかし、その実体は明らかになっていない。そこで、重要作物であるイネと、その最重要病害であるいもち病菌の系を用いて、この病原体認識の総合的なメカニズムの解明を試みる。 いもち病抵抗性遺伝子の一つであるPi-aの遺伝子座にはNBS-LRRの構造をもつ16個の遺伝子が存在する。このうち、これまでの解析で最もPi-aである可能性が高いと考えられたRPR1遺伝子について解析を行った。RPR1がPi-aである可能性を調べるため、CaMV35SプロモーターでRPR1を発現させる遺伝子をPi-a遺伝子を持たないイネ品種農林8号に導入した。同時に、MycあるいはHA、FlagタグをもつRPR1遺伝子も導入した。RPR1遺伝子を導入した植物体にPi-aをもつ植物に対して非親和性であるいもち病菌を接種したところ、野生型に比べ強い抵抗性を示すものの、顕著な過敏感反応は示さなかった。したがって、RPR1はPi-aでないが、RPR1の過剰発現によりSAR様の抵抗性が誘導されたものと考えられた。今後、この植物体を用いてRPR1の複合体の解析が可能になったが、RPR1を抵抗性遺伝子として同定できなかったため、既知のいもち病抵抗性遺伝子Pi-taを用いて、同時にその複合体の解析も開始することにした。現在、タグをもつPi-taを発現する植物体の作成中である。今後、これらの植物体を用いて、カラムクロマトグラフィーを用いて複合体の解析を行うと同時に、複合体に含まれる構成因子の同定を免疫沈降および質量分析計を用いて進めていく予定である。また、Pi-a病原体認識に関与するイネ変異体の単離も開始した。
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