γ-セクレターゼはAPPの膜内配列を切断し、アルツハイマー病発症に深く関連するβアミロイド蛋白の最終段階を担う酵素である。その分子的本態として、家族性アルツハイマー病原因遺伝子の一つであるPresenilinを活性中心とした、Nicastrin(Nct)、Aph-1、Pen-2によって構成される高分子量膜蛋白複合体であることが明らかとなっている。特異的な阻害剤の開発やその高次構造の理解のためには、活性を持つ酵素の高効率な発現・精製法の確立が必須であるが、複数の膜蛋白によって構成される複合体という特性のため、通常の発現系では困難であった。そこでバキュロウイルス発現系において、感染Sf9細胞から出芽するウイルスに活性を持つ膜蛋白複合体が効率よく濃縮されるという現象を利用することを考え、4分子それぞれをコードするリコンビナントバキュロウイルスを作製し、Sf9細胞に感染させた(東大・先端研、浜窪・児玉教授との共同研究)。その結果4分子すべくを感染させたときに初めて活性型γ-セクレターゼ複合体がSf9細胞膜画分および出芽ウイルス画分に再構成され、その酵素学的性質は哺乳類細胞のそれとほぼ同様であった。さらにSf9細胞には不活性型γ-セクレターゼをあらわすと考えられる全長型PSが多く存在していたのに対し、出芽ウイルス画分には活性型γ-セクレターゼの特異的な集積が観察された。この方法により活性型γ-セクレターゼを特異的に産生・精製することが可能となったほか、多種の膜結合性サブユニットからなる高分子量膜蛋白複合体を効率よく再構成することが可能となることが示唆された。
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