現在汎用されているアデノウイルスベクターはSubgroup Cに属する5型アデノウイルスを基本骨格としているが、Coxsakievirus-adenovirus receptor (CAR)を認識して感染するため、CAR陽性細胞では高い遺伝子発現を示すものの、CAR陰性細胞での遺伝子発現効率は低い。この問題点を克服するため、CAR以外の分子を認識して感染する、Subgroup Bに属する35型アデノウイルスを基本骨格とするアデノウイルスベクターを開発した。35型アデノウイルスベクターの遺伝子導入活性を5型アデノウイルスベクターと比較したところ、35型アデノウイルスベクターはCAR陰性細胞を含む多くのヒト由来細胞において高い遺伝子導入活性を示した。特に、5型アデノウイルスベクターで遺伝子導入が困難なヒトCD34陽性細胞に対しても高い遺伝子導入効率を示すことが明らかになった。次に、35型アデノウイルスベクターのin vivo(マウス)における遺伝子導入特性を検討するため、ルシフェラーゼ発現35型アデノウイルスベクターをマウスに尾静脈内投与し、各臓器でのルシフェラーゼ活性を測定した。その結果、各臓器(肝臓、心臓、肺、腎臓、脾臓)で低いルシフェラーゼ活性しか示さなかった。この原因について検討するため、尾静脈内投与後のアデノウイルスベクターの血中滞留性および臓器分布をSlot-blotおよびsemi-quantitative PCRを用いて検討した。その結果、35型アデノウイルスベクターの血中半減期は数分であること、ベクターは肝臓の非実質細胞に主に取り込まれ分解されていることが判明した。なお、本研究進行中に、35型アデノウイルスの受容体がCD46であることが報告されたが、上記結果は各細胞、組織におけるCD46の発現の有無で解釈できるものであった。
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