研究概要 |
神経系の基本構造は脊椎動物の間でよく保存されているが各部の大きさや形は様々である。それらは第一にその原基に存在する前駆細胞の数に依存すると考えられる。各原基の細胞増殖は局所に発現している増殖因子によって制御されていると考えられる。我々はSonic hedgehog(Shh)ノックアウトマウスの解析によって視床原基増殖期におけるShh→Fgf15→Tcf4カスケードによる増殖促進機構を見いだした。このカスケードにおける遺伝子発現制御の分子機構を明らかにするため、Fgf15遺伝子の調節領域と考えられるゲノム断片を単離した。この断片は、Shhシグナルを細胞内で核に伝達する因子GLIの結合配列に似た配列を含むだけでなく、神経管の中で脳になる部分を決定するのに重要と考えられているOTXの結合配列も含んでいた。この単離した断片がFgf15の発現に十分な調節領域を含んでいるか調べるためにlacZと融合させてトランスジェニックマウスを作成したところ、lacZの発現パターンはFgf15の発現パターンを再現していた。さらにこのゲノム断片をルシフェラーゼ遺伝子につないで、培養細胞を用いてアッセイを行ったところ、Shhシグナルに反応してルシフェラーゼ活性が上昇した。GLI結合配列に変異を導入しその結合能を欠失させたところ、ルシフェラーゼ活性の上昇が低下し、またトランスジェニックマウスにおける発現も消失した。これらの結果から、単離したゲノム断片はFgf15の脳における発現に十分な領域を含み、またその発現はShhによって直接誘導されることが示された。 一方、神経系形態形成における重要な現象の一つに上皮-間葉細胞移行がある。内耳原基(耳胞)上皮の一部はdelamination, migrationを経て耳胞の隣に蝸牛前提神経節が形成する。我々は、耳胞に発現している分泌因子TGFβ2が神経節の形成を促進することを明らかにした。
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