臓器移植治療におけるタクロリムスなどを中心とした免疫抑制療法は、移植片生着のためには必須とされる。一方、タクロリムスの血中濃度を有効域に保っているにも関わらず、急性拒絶反応や、過剰な免疫抑制によると感染症の合併などが問題となっているため、タクロリムスに対する応答性(薬物感受性)の個別化が必要と考えられる。さらに、正確な薬物治療の指標となるバイオマーカーの特定が望まれている。 本研究では、免疫抑制剤の薬効発現部位である末梢血白血球に着目し、生体肝移植直後の拒絶反応の発現をエンドポイントとして、術後3、7、14日目の抹消血検体よりtotal RNAを抽出し、様々な遺伝子発現について検討した結果、ステロイド薬の標的分子であるグルココルチコイド受容体(GR/NR3Cl)の発現量には、大きな個体間変動が存在すること、機能欠損型バリアントであるGRβはほとんど発現せず臨床的役割は小さいこと、GRのシャペロンとして機能するFKBP4または5の発現量に大きな個体間変動は認められないことなどが明確となり、ステロイド薬に対する感受性の個人差の分子機序解明につながる成果を得た。 次に、肝移植直後の急性拒絶反応とタクロリムス血中濃度とを比較した結果、術直後4日間の血中濃度を十分に保たなければ拒絶反応発現の危険性が高いことが認められた。さらに、小腸MDR1 mRNAレベルはタクロリムス初期血中濃度推移に強く影響を与えるのみならず、拒絶反応発現と未設に関連するバイオマーカーであることが判明した。パイロット的に行った、術時小腸MDR1 mRNAレベルを参考にしたタクロリムスの初期用量設定法は、拒絶反応の縮減と良好な患者予後に貢献した。 以上、本研究では小腸のMDR1や抹消血のMDR1、GRなど生体肝移植患者における免疫抑制療法に対する有用なバイオマーカーを発見することができ、当初の目標をおおむね達成することができた。
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