ラット下部尿路閉塞モデルを用いた実験において、膀胱平滑筋の組織学的変化とカルシニューリン発現の経時的変化との相関関係について検討した。その結果、膀胱平滑筋肥大に伴いカルシニューリン発現の増加し、収縮機能が損なわれ大量の残尿が生じる非代償期にはその発現はコントロールと同様のレベルにまで低下していた。また、筋肉の主要構成成分であるミオシンヘビーチェーンの発現は、カルシニューリンの発現と密接に相関していた。このことから、膀胱平滑筋肥大にカルシニューリンが関与していることは明らかになったが、それが原因となっているのか、もしくは肥大に伴う2次的な産物であるのかという疑問が生じた、そこで、膀胱平滑筋初代培養細胞に、カルシニューリンの遺伝子を組み込んだアデノウィルスを感染させ、細胞内にカルシニューリンを強発現させることにより、肥大が誘発されるか否かを検討した。結果として、細胞面積は有意に増加していた(コントロール;428.6±92.8μm^2、カルシニューリンを発現させた細胞;786.4±112.9μm^2)。以上より、心筋肥大同様にカルシニューリンが膀胱平滑筋肥大の原因蛋白であることが強く示唆された。また、下部尿路閉塞による圧刺激のみならず、伸展受容体を介する刺激の関与も考えられるため、膀胱平滑筋初代培養細胞を細胞伸展システムを用いて伸展負荷をかけることにより、カルシニューリンの発現が3時間後には増加し、またNFATの核内への移行が確認された。その核内意向はカルシニューリンの阻害剤であるFK-501投与により抑制されることも確認された。
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