研究概要 |
近年,イアホンを用いず,鼓膜や耳小骨を直接加振するタイプの植込み型補聴器(Implantable Hearing Aid : IHA)が開発されつつある.IHAは,外耳道の音響特性の影響を受けず高音質という特徴を有している.しかし,体内への植込み手術が必要であること,適応の決定が難しいこと,高度混合性難聴に適用可能な程の高利得が得られていないことから,広く普及する段階には至っていない.そこで本研究では,コンピュータシミュレーションおよび微小振動計測により,広い周波数帯域幅とダイナミックレンジを持つ,電磁コイルとマグネットを組み合わせた,低侵襲完全植込み型の補聴システムの開発を試みる. 本年度は,有限要素法によるヒト中耳モデルを用いたコンピュータシミュレーションにより,補聴システムの耳小骨加振部であるコイルの最適形状と留置位置の評価を行った.その結果をもとに,直径1.2mm,質量50mgのコイルを,形状記憶合金を用いてアブミ骨頭に固定し,コイルに通電することで,鼓室に留置した永久磁石との磁力の作用によりアブミ骨を加振するデバイスの試作を行った.更に,実際に近いインピーダンスを持つ人工アブミ骨-蝸牛物理モデルを作成し,このモデルのアブミ骨に,作成したデバイスを装着・加振し,その時のアブミ骨振動をレーザードップラ振動計で計測した.その結果,試作デバイスは,鼓膜面音圧に換算して,80〜110dB SPL相当の振動を発生させることが可能であり、ひずみも少ないことが明らかとなった.
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