研究概要 |
近年,イアホンを用いず,鼓膜や耳小骨を直接加振するタイプの植込み型補聴器(Implantable Hearing Aid : IHA)が開発されつつある.IHAは,外耳道の音響特性の影響を受けず高音質という特徴を有している.しかし,体内への植込み手術が必要であること,適応の決定が難しいこと,高度混合性難聴に適用可能な程の高利得が得られていないことから,広く普及する段階には至っていない.そこで本研究では,従来の植え込み型補聴器と比較して,人体に対する侵襲が小さい人工聴覚システムの開発を目指す.本システムは,コイルを耳小骨にクランプすると共に,正円窓に取り付けたチャンバーの薄膜上にも取り付け,外界の音に相当する交流電流をこの二つのコイルに流し,鼓室内に留置した磁石とコイルの間に働く電磁力を利用して,耳小骨と正円窓共に加振させるものである. システム開発の指針を得るため,コイルの最適な耳小骨上の留置位置,質量の評価を有限要素法(FEM)を用いて行った.また,FEMにより得られた結果を基に,デバイスを試作し,加振力,応答性などの性能評価を人工アブミ骨-蝸牛モデルにより行った.その結果以下の所見を得た. 1.振動デバイスの耳小骨上の取り付け位置は,アブミ骨頭が最適である. 2.振動デバイスの質量は,50mg程度ならば,加振効率に大きな影響は及ぼさない. 3.振動デバイスをアブミ骨頭に取り付けることによって,40 dB HLの難聴者に必要な出力を得ることができる. 4.チャンバーを正円窓に取り付けることによって,40 dB HLの難聴者に必要な出力を得ることができる. 5.試作した振動デバイスは,ひずみの少ない線形的な振動特性を示す. 6.高周波数領域でも,低周波領域と同等の出力を得ることができる.
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