研究概要 |
本研究では、歯の発生から脱落に至るまでの、糖鎖機能を解明することを目的としてきた。 その中で、まず歯の発生過程における糖鎖分子の発現パターンを決定する目的で、歯原性上皮細胞より糖脂質分子を精製し、その糖鎖構造の解析を行なった。その結果、中性糖脂質ではGb4、LacCerが、また酸性糖脂質ではGM3,GM1がその主要構成成分であることが判明した。 また、歯の発生段階において、発現量に変化の認められる分子群のスクリーニングから、GD3合成酵素であるシアル酸転移酵素の発現が、歯原性上皮細胞に認められた。この遺伝子は、発生初期に高い発現を示すが、分化とともに徐々に減少していくことが明らかになった。本遺伝子を歯原性上皮細胞に過剰発現させることで、その細胞増殖能の亢進が認められたとこから、シアル酸転移酵素遺伝子の発現が、何らかの増殖因子シグナルを制御していることが示唆された。 一方、糖鎖修飾された細胞外マトリックスの歯の発生における機能の解明も同時に行なってきた。その中で、O型糖鎖結合蛋白であるアメロブラスチンは、ヘパラン硫酸プロテオグリカン結合領域を有し、そのドメインを利用して細胞接着活性をもつマトリックス蛋白として機能し、その結果、エナメル芽細胞の分化及び、エナメル質形成に必須の分子であることが、ノックアウトマウスの解析から明らかとなった。また、本ノックアウトマウスでは、加齢とともに歯原性腫瘍の生じることから、アメロブラスチンは単にエナメル形成にもならず、口腔硬組織内の主要形成にも重要な分子であることが明らかとなった。 また基底膜糖蛋白分子であるラミニンのうち、alpha2鎖を有するラミニンが、象牙質形成に重要であることを発見した。ラミニンalpha2鎖欠損マウスでは、象牙質形成に重要である象牙質シアロ蛋白の発現の減少を認めた。その結果、象牙質形成過程におけるプロテオグリカン分子群の除去を十分行なえないことから、象牙質形成の抑制が認められ、さらには象牙芽細胞自体の分化抑制にも異常を生じていることが明らかとなった。 現在、歯の発生過程に重要な新規糖鎖分子群のスクリーニングと、個々の糖鎖機能について詳細な解析を進めている。
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